ファーマコビジランスにおける人工知能: 科学文献におけるICSRを検出するためのAIの使用
現在、多くの市場認可取得者(MAH)が自問しているのは、ファーマコビジランスの文献レビューに人工知能をどう活用するかということです。その理由は? 多くのMAHは、評価すべき文献の量が増加しているため、個別症例安全性報告(ICSR)のための科学文献をレビューする際の課題の増加に直面しています。毎日、約6,000件の査読済み論文が約10,000誌に掲載されており、2020年だけでも査読対象文献は10%増加しています。また、残念ながら、精密な検索戦略を作成したとしても、手作業でレビューされた有効なICSRを含む文献検索結果は、わずか5%に過ぎないのです。MAHは、完全なコンプライアンスを維持しながらコストを削減する必要に迫られています。
このことは、私たちの顧客であるGlaxoSmithKlineが直面している状況も同様です。世界的なヘルスケア企業であるGSKは、MAHの義務の一環として、ICSRを特定するために毎日何千もの抄録をレビューする必要があります。そのために、GSKでは、当社のDialogというデータベースサービスを使って文献検索を行っています。Dialogのアラートで配信される検索結果は 、当社の安全性文献トリアージ製品である Drug Safety Triager に自動的にインポートされ、有効なICSRを含むと分類される4つの基準(疑わしい医薬品、特定できる患者、関連する有害事象、報告者)が含まれているかどうか、手作業で確認しています。
以前、私たちはGSK社に、新世代の Drug Safety Triager で利用できるAIを使用した関連性ランキングエンジン DialogML を紹介したことがあります。DialogML は自然言語処理(NLP)を利用して、ファーマコビジランス文献モニタリングのワークフローを効率化するものです。GSKは、DialogML を Dialog と Drug Safety Triager と共に使用することで、ICSRの文献レビューを現在よりも効率的に行えることを具体的に示すよう私たちに求めました。
GSKのファーマコビジランスにおける人工知能の実証実験
DialogML がどのように役立つかを正確に証明するために、私たちは GSK と共同で DialogML の実証実験を実施することにしました。
DialogML は NLP (自然言語処理) を用いて、有効なICSRが含まれる可能性が高い抄録と低い抄録を自動的に識別します。そして、各論文に関連性ランキングのスコアを付与し、そのスコアに基づいて論文をリストアップします。つまり、ICSRが含まれている可能性が最も高い抄録がリストの一番上に、最も低い抄録が一番下に表示されます。これにより、ICSRのレビュアーは最も関連性の高い論文に時間と労力を集中させることができ、より迅速に関連性の高いICSRを見つけ、関連性のないものを除くことができるようになります。また、DialogML では、文献の関連性を示す重要な医薬品安全性用語をハイライト表示することができるため、文献レビューのスピードをさらに向上させることができます。
GSKは DialogML の効果を実証するため、テストデータ(以前に手作業でICSRを選別した科学文献の抄録)を提供してくれました。このデータは DialogML のNLPモデルの学習と、このモデルの有効性のテストに使用されました。
結果はどうだったのでしょうか?
現在、論文のレビュー方法はアラートからの受信順になっており、受信した文献の純で最後にICSRが見つかる場合があります。
しかし、DialogML がテストデータを分析し、関連性に基づいて抄録をランク付けしたところ、99%のICSRがソートされた文献リストの上位33%に見つかりました。そして、100%のICSRが全文献の上位65%に含まれていました(下のグラフを参照)。下位35%にはICSRがなく、これらの論文は迅速な一括レビューの候補となりました。別の言い方をすれば、文献レビューの担当者は最初の1時間で85%の有効なICSRを見つけることができたのに対し、DialogML を使わなかった場合は最初の1時間で12.5%のICSRしか見つけることができなかったということです。
また、このテストでは、DialogML によって各文献をレビューする時間を短縮できることも示されました。通常、各文献は文献レビュー担当者が全てを見るのに平均4.5時間かかります。DialogML を使用すると、文献をレビューするための平均時間が1.2時間まで短縮されることが確認されました。
また、患者、有害事象、薬剤などの医薬品安全性に関する主要な用語のハイライトは、文中の出現箇所をレビュアーが容易に見つけるのに有効であると評価されました。
この結果は、医薬品安全性文献モニタリングにとってどのような意味を持つのでしょうか?
GSK とのテストでは、ファーマコビジランスで AI を使用することが医薬品安全性の文献レビューチームにとって、いくつかの重要な利点があることが実証されました。
1つ目は、文献レビューの効率化です。関連性ランキングにより、文献レビューの担当者は有効なICSRが含まれる可能性が最も高い抄録にまず焦点を当てることができます。
2つ目の利点は、DialogML によって、ICSRの候補をレビューして症例を見つけ出す作業に必要な時間を短縮できることで、規制当局にICSRを提出するという時間的プレッシャーも軽減されます。このことは、効率性の向上だけでなく、規制遵守をサポートする上でも重要な意味を持っています。もう一つの利点は、レビュー担当者がハイライト表示により、より早くレビュ ーが終了できることです。
また、DialogMLを文献レビューのワークフローで稼働させれば、DialogMLが人間のレビューと比較してどのように機能するかを示す証拠を収集することが可能になります。つまり、将来的には、リストの下位にある文献を自動排除の対象とし、上位にある文献を自動的にICSRの対象とすることができるようになる可能性があるのです。
次のステップへ
GSKと実施したファーマコビジランス牛無で人工知能 (AI) を使用する実証実験では、文献レビューのプロセスでAIとNLPを使用することの利点が証明されました。この概念実証(PoC)の成果もあり、GSKはDrug Safety Triager を最新バージョンにアップグレードし、医学文献モニタリングプロセスの一部として DialogML を使用する契約を締結しました。GSKは DialogML と Drug Safety Triager を使用することにより、文献レビュー作業の効率をさらに向上させることができるようになります。
GSKは、この実証実験の結果をICPE 2021(2021年8月23日~25日)で発表する予定です。会議の終了後、国際薬物疫学会の公式ジャーナルである Pharmacoepidemiology and Drug Safety(PDS)で、このPoCの結果を発表したポスターにアクセスすることができるようになります。ポスターのタイトルは、「Automating Individual Case Safety Report within scientific literature using Natural Language Processing(自然言語処理を用いた科学文献内の個別安全性報告の自動識別)」です。
DialogML、Drug Safety Triager、Dialog が医薬品安全性のための文献レビュー作業の効率と効果に与える実際のインパクトを実証できたことを非常にうれしく思います。文献レビューのワークフローや Dialog Solutions がどのように役立つかについてご相談されたい場合は、日本の代理店である株式会社ジー・サーチ までご連絡ください。